業務範囲・報酬・成果物・中途解約・損害賠償など、行政書士の業務委託契約書で落とせない条項を整理します。本記事は開業1年目から3年目の行政書士が、自分の業務に合わせて契約書のひな形を組み立て直す際の確認リストとして使えるよう構成しました。書面化することでトラブルの多くは未然に防げます。
なぜ契約書を交わすのか
行政書士業務の多くは、契約書を交わさずとも口頭の依頼だけで実務に入ることができてしまいます。しかし書面を残さない受任は、業務範囲の認識違い・報酬未払い・成果物の定義ずれなど、後から紛争化する火種を抱え込むことと同義です。特に不許可リスクのある許認可業務や、相続・法人設立のように関係者が複数にまたがる業務では、契約書の有無がそのまま事務所の信頼と経営の安定を左右します。
書面での合意は、依頼者にとっても「何をどこまで頼んだのか」を確認できる安心材料となります。契約書はクレーム予防のツールであると同時に、依頼者との関係を対等な業務委託関係として整えるための道具でもあります。
必須条項1|業務範囲の特定
契約書の心臓部は業務範囲の条項です。受任する書類名・対象となる手続き・関与する行政機関を具体的に特定してください。たとえば建設業許可の新規申請であれば、許可区分(一般/特定)、業種、申請先、事前相談の有無、決算変更届の要否まで含めて記載します。
- ◼︎ 受任する書類名・手続名を固有名詞で書く
- ◼︎ 申請先となる行政機関を明記する
- ◼︎ 契約に含まれない業務を「対象外業務」として明記する
- ◼︎ 追加業務が発生した場合の追加料金の扱いを定める
◼︎ 注意点:行政書士は弁護士法72条との関係で、紛争性のある事案の代理・示談交渉・具体的法律相談を業務として扱うことはできません。業務範囲の記載も、行政書士法1条の2及び1条の3の範囲内に収まるよう注意してください。
必須条項2|報酬額・支払時期・支払方法
報酬トラブルを防ぐ最大の鍵は、金額と支払タイミングを一円単位・一日単位で明記することです。着手金・中間金・完了金のいずれの方式を取るかを決め、振込口座・振込手数料の負担・領収書発行の方法まで書面に落とし込みます。
- ◼︎ 報酬額(税込・税抜を明示)
- ◼︎ 実費(登録免許税・証紙代・交通費等)の扱い
- ◼︎ 着手金の金額と支払期日
- ◼︎ 完了金の支払期日と支払方法
- ◼︎ 支払遅延時の遅延損害金の利率
◼︎ 注意点:インボイス登録事業者か否かで請求書の記載事項が変わります。登録番号がある場合は、請求書の記載事項とあわせて契約書にも登録番号を記載しておくと後の経理対応が楽になります。
必須条項3|成果物の定義と納品方法
許認可業務では「成果物」の定義が曖昧になりがちです。申請書類一式の作成までを成果物とするのか、申請代理・受理までを含めるのか、許可取得までを責任範囲とするのかで、依頼者の期待値は大きく変わります。
行政書士の業務は、書類作成・提出・相談を中心とするものであり、許可・不許可の結果そのものを保証できる性質のものではありません。したがって成果物は「申請書類一式の作成及び提出代理」までとし、許可の可否は行政庁の判断に委ねられることを明記しておくのが安全です。
必須条項4|期間と中途解約
業務委託契約は、始期と終期を明確にしてください。「受任日から申請完了日まで」のように事案ベースで区切る方法と、「契約締結日から6ヶ月間」のように期間で区切る方法があります。いずれにせよ、業務が長期化する場合の延長手続と、どちらか一方から解約するときの手続きは書面で定めます。
- ◼︎ 中途解約の申し入れ方法(書面・メール)
- ◼︎ 解約時の既払金の精算方法
- ◼︎ 解約時の書類返還義務
- ◼︎ 着手金の返還の要否
◼︎ 注意点:不許可となった場合の返金の有無は、事前に契約書で取り決めておかないと後で必ずトラブルになります。行政書士業務は結果保証の業務ではないため、不許可時も着手金は返金しない旨を明記するのが一般的です。
必須条項5|再委託の可否
行政書士業務は本人の独立性と責任のもとで行うのが原則です。一方で、一部業務を外注するケース(翻訳・図面作成・補助者への入力作業など)も実務では珍しくありません。再委託を認めるか否か、認める場合は事前承諾を要するか否かを明記します。
必須条項6|秘密保持
行政書士は行政書士法12条により守秘義務を負っています。契約書にも秘密保持条項を入れ、契約終了後も秘密保持義務が存続することを明記してください。秘密保持の詳細なルールが必要な場合は、別途秘密保持契約書(NDA)を締結する方法もあります。
必須条項7|損害賠償の上限
万一の事故に備えて、損害賠償額の上限を契約書で定めておくことをおすすめします。一般には「受領した報酬額を上限とする」とする例が多く見られます。上限を設けない契約書は、行政書士側のリスクが青天井になります。
◼︎ 注意点:故意または重過失による損害は、上限条項の対象外とする必要があります。消費者契約法の適用を受ける個人依頼者との契約では、一方的に賠償責任を免除する条項は無効となる可能性があります。あわせて、全国行政書士政治連盟が紹介する職業賠償責任保険(行政書士賠償責任補償制度)への加入も検討しましょう。
必須条項8|管轄裁判所
紛争が生じた際の裁判所を合意しておきます。事務所所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所を専属的合意管轄とする例が一般的です。遠方の依頼者と契約する場合でも、自分の事務所から動かない裁判所を指定しておくと移動コストを抑えられます。
電子契約と書面契約の選択
近年は電子契約サービスの普及により、紙の契約書を郵送しなくても契約締結できる環境が整っています。電子契約の主なメリットは、締結までのスピード・印紙税が不要となること・保管コストの削減です。一方、依頼者が高齢で電子署名に不慣れな場合は、紙の契約書のほうがトラブルが少ないケースもあります。相手方の事情に合わせて使い分けるのが現実的です。
印紙税の扱いと行政書士法上の注意
請負契約書に該当する場合は印紙税の納付が必要となる場合があります。行政書士の業務委託契約書は、委任契約に該当するケースが多く、その場合は非課税となります。ただし、契約書のタイトルや内容によって課税文書に該当することもあるため、迷う場合は国税庁タックスアンサーや所轄税務署に照会してください。
また、行政書士法及び行政書士倫理綱領上、利益相反・品位を害する受任・違法な依頼の受任は禁止されています。契約書の前段で「受任業務が行政書士法の業務範囲内であること」「依頼目的が適法であること」を確認する条項を置くと、依頼者との認識合わせにも役立ちます。
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