1件あたりの実労働時間と実質時給を把握するために、最低限記録すべき項目と運用の続け方です。工数を記録していない事務所は、実は「赤字案件を掴んでいる」ことに気づかないまま走り続けてしまいます。本記事では、負担の少ない記録方法と月次の見方をお伝えいたします。
なぜ工数記録が必要か(実質時給を知る)
報酬10万円の案件を受任したとき、それが「良い案件だった」と判断するためには、ほんとうは10万円÷投下時間で求められる実質時給を知る必要があります。ところが、工数を測っていない多くの事務所は、この計算を感覚で済ませてしまっています。
たとえば、Aという建設業許可の新規申請で10万円、投下時間が20時間なら時給5,000円です。一方、Bという在留資格の申請で8万円、投下時間が40時間なら時給2,000円です。報酬額だけ見るとAの方が3割高ですが、時給で見るとAの方が2.5倍儲かっています。こういった判断は、記録なしでは絶対にできません。
開業直後は「とにかく案件を取る」段階なので、時給の意識は後回しでも構いません。しかし1年経ったら必ず、どの業務が自分にとって時給の高い業務なのかを把握してください。その数字が、次年度の価格設定と業務特化の判断材料になります。
最小限の記録項目
工数記録を続けるコツは、項目を絞り込むことに尽きます。次の7項目があれば分析に十分です。
- ◼︎ 日付
- ◼︎ 案件名(または顧客名の略称)
- ◼︎ 業務区分(建設業許可・在留資格・補助金など)
- ◼︎ 開始時刻
- ◼︎ 終了時刻
- ◼︎ 作業内容(要点を1〜2行で)
- ◼︎ 備考(電話・面談・書類作成・調査などの区分)
作業時間を分単位で計算するために、開始と終了の両方を記録する必要があります。逆に言えば、この7項目以外は不要です。記録の手間が増えるほど継続率は下がります。
5分単位か15分単位か
記録粒度は5分単位または15分単位が一般的です。
法律事務所など工数記録が徹底している業界では6分単位(0.1時間)が主流ですが、行政書士事務所でそこまで細かく測る必要はありません。開業直後は「だいたいの時間帯が分かる」レベルで十分です。10:00-11:15、のような15分単位での記録でも、月次で集計すれば傾向は見えてきます。
ただし、電話対応のように短時間で発生する作業をまとめて1コマにすると、実態より作業時間が短く出ます。こうした短時間作業は「電話対応枠」などにまとめて集計する工夫をすると、数字がブレにくくなります。
紙・スプレッドシート・専用ツールの比較
記録ツールは3種類から選べば十分です。
紙のノート
机の上に日付入りのノートを置き、開始時に案件名を書き、終わったら時刻を書く、というシンプルな運用です。ITに抵抗がある方でも続きます。ただし月次集計は手作業になるため、案件数が増えると厳しくなります。
スプレッドシート
最もおすすめの方法です。GoogleスプレッドシートまたはExcelで、上記7項目の列を作るだけで始められます。SUMIFSやピボットテーブルを使えば、業務別・案件別の集計もすぐに出せます。Notionのデータベースで代用することも可能です。
専用ツール(Toggl Trackなど)
作業中にスタートボタンを押して、終了時に止めるだけで記録できるツールもあります。アプリでの操作に慣れている方にとっては、記録の手間が最も少ない方法です。ただし、後から手動で数字を直すときはスプレッドシートより面倒です。
続けるコツ(終業5分の記録習慣)
多くの人が工数記録に挫折するのは、作業の都度リアルタイムで記録しようとするからです。現実的にはそれは続きません。
おすすめは、終業前の5分を「今日の工数を書く時間」に固定することです。今日の自分のGoogleカレンダーやメール送信履歴を見返しながら、案件ごとの時間帯を書き起こします。翌朝に回すと忘れてしまうため、必ずその日のうちに書いてください。
もう1つのコツは、記録を完璧にしようとしないことです。5分ズレても10分ズレても、月次の傾向は十分見えます。続けることの方が、正確さよりも100倍重要です。
月次で見るべき指標
毎月末に30分だけ時間を取り、次の3つの指標を集計いたします。
案件別時給
受任した案件ごとに「報酬総額÷投下時間」を計算します。完了した案件のみを対象にしてください。この数字が自事務所の基準時給を下回った案件は、次回は価格を上げるか、業務フローを見直す必要があります。
業務区分別時給
業務区分(建設業許可・在留資格・補助金など)ごとに時給の平均値を出します。これが、自分にとって利益率の高い業務を特定する指標です。時給が高い業務に注力し、低い業務は価格を上げるか撤退する、という判断ができます。
作業別時給
書類作成・面談・調査・電話対応など、作業内容別の時間配分を見ます。たとえば調査に時間を取られすぎている場合、テンプレートやチェックリストの整備で時短できる余地があります。
価格改定のシグナル
工数記録から、価格を上げるべき明確なシグナルが3つ読み取れます。
1つ目は、自事務所の目標時給を下回る案件が3件以上連続で発生したとき。たとえば目標時給5,000円の事務所で、時給3,000円の案件が続いている場合、その業務区分の価格設定が市場実勢と合っていない可能性があります。
2つ目は、特定の業務区分で見積段階の想定時間と実際の時間が常に20%以上乖離しているとき。想定が甘いか、業務フローが非効率か、いずれかの改善が必要です。
3つ目は、同じ業務を繰り返しても時間が減っていかないとき。通常、同じ業務は5件、10件と経験を積むほど短縮されていきます。短縮されない場合はテンプレート化・チェックリスト化の余地があるはずです。
これらのシグナルに気づけるのは、工数を記録している事務所だけです。開業1年目の方ほど、早めに記録を始めていただきたいと思います。
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